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製作国
韓国
監督
キム・スジョン
出演者
イ・テギョン
イ・ハンジュ
今回はアマプラにて鑑賞の映画、平平男女~Unboxing Girl~(原題:평평남녀)の感想。
Xにて大元 拓也さんにご紹介頂き鑑賞いたしました。
見た感想としては序盤はラブコメと見せて、中盤から男性優位社会について暴力性まで感じる描き方をするかなり見応えのある映画でした。
ラブコメ部分で感情移入を強くさせてそこからの展開で心を滅茶苦茶にしてくる、しっかりと考えられたこの丁寧な内容。
派手に大きな変化を求める人には物足りないかもしれませんが、確かな変化の一歩を見たいという人にはかなりハマる映画だと思いますよ。
ジャンルはラブストーリーで上映時間は約121分となります。
目次
あらすじ
女性は仕事と愛を同時に手に入れることはできるのか?デザイナーとして働くヨンジンは女性である事が理由で会社からほとんど評価されていない。しかし、コネを利用して簡単にヨンジンの上司の地位に抜擢される男性のジュンソル。ヨンジンはジュンソルを敵視するが、彼の空虚さに同情し、会社に馴染めるよう手助けをする。しかし、ジュンソルはヨンジンの許可なく彼女のデザインを盗み出してしまう。盗まれたデザインを取り戻したいヨンジンだが、ジュンソルと築いた関係もあきらめることが出来ず…
Amazon Prime Videoより
平平男女~Unboxing Girl~を配信している配信サービス
※2024年7月17日時点
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登場人物
・パク・ヨンジン
デザイナーの女性でチーム2の課長代理
恋愛もせずに仕事に邁進して来たが課長代理のジュンソルのサポートをしていくうちに彼に惹かれていく
・パク・ジュンソル
母親のコネでチーム2に課長として配属された男性
昔から母親のコネで学校などが決められ、孤立してきたことがコンプレックスとなっている
・ハナ
息子のジョンビンを育てるシングルマザー
ヨンジンの元同僚で出産を機に仕事を辞めた
ヨンジンとは現在も交流があり、息子の世話を頼んだり、彼女の相談に乗ったりしている
・チェ・ジョンミン
チーム2所属でヨンジンの同僚
ヨンジンを気にかけている
ざっくり概要
途中でがっつりとジャンルが切り替わる本作。
そんなジャンルが切り替わる中盤までのざっくりとしたあらすじをいつも通りに。
仕事人間で恋愛もせずに生きて30半ばになったデザイナーの女性ヨンジン。
自身のデザインの提言などは却下され、チーム2の課長への昇進も出来なかった彼女の前に、親のコネでその課長になった男性ジュンソルが配属される。
その背景を知っているチーム2のメンバーはジュンソルを心からの歓迎は出来ず、
彼もまたデザインのことはろくに知らないために職場での居場所を失ってしまう。
部長の計らいで代理であるヨンジンとジュンソルの食事会を開くが、その場においても仕事についての話を始めるヨンジン。
そんな彼女が気になったジュンソルはヨンジンが訪れようとした展示会に現れ、会場のトラブルで展示の予定が変わったことを伝える。
予定が崩れ改めて食事をし酔っ払った2人は交流を深め、ヨンジンは死に物狂いで仕事をしても男性に負ける会社の風潮を、
ジュンソルは常に母親のコネによるレールを敷かれどの場所でも孤立して来たコンプレックスを明かす。
互いに仕事中にケンカをして退勤したら和解しようと語り、カラオケで歌い明かしてからヨンジンの元同僚であるハナの家で一夜を明かした2人。
翌朝、共に出社した際に下半期の提案書は自分が仕上げたいと申し出るジュンソルに協力するヨンジン。
職場ではいつ辞めるのか賭けられるなど相変わらず信頼されてはヨンジンの方が信頼されていた。
先日の展示会に改めて訪れた2人はデザインについて語り合う、機能性だけではなく人生をただ楽しむ作品やデザインについての感性などを。
多少の意見の相違はあれど、語り合った末に惹かれ合った2人はキスをし、そしてヨンジンは自分の部屋にジュンソルを招く。
生活能力が無い部屋を見て少し引きながらも2人で協力して部屋の掃除をするヨンジンとジュンソル。
その掃除の際にかつてヨンジンがデザインして没にされたスケッチを見つける。
互いに結ばれデートを重ねる2人だったが、好みの違いが少しずつ浮き彫りになっていっていた。
下半期の提案が迫る中でチームの人間の態度やデザインの好みについてなどで喧嘩をした2人。
そして下半期の報告の日。
ジュンソルの発表したデザインはかつてボツにされたあのスケッチに描かれていたヨンジンのイラストだった。
それを自分の提案した物だとして…
会議が終わりジュンソルを問いただすヨンジン。
そこでジュンソルは男として無能な人間と見られたくないとずっと無能な扱いを受けて来たとコンプレックスを爆発させてしまうのであった。
恋人のデザインの盗用、そしてコンプレックスの爆発。
ヨンジンは男性優位社会という枠の苦しさに改めて直面することになる。
ラブコメからの一転社会派映画に
ラブコメだと思ったら実は男性優位社会についてゴリッゴリち描いた社会派映画な本作。
自分は最初、社会の強い風潮の中で生まれた“枠”に苦しむ男女が互いに補い会うラブコメだと思っていたんですよ。
男性優位社会で仕事に邁進して出世を目指すも塞がれているヨンジンと、
親のコネと男性であるというこの社会において圧倒的な恩恵を受けるもそこに息苦しさや気まずさを感じているジュンソル。
こんな関係性だったら2人が互いを補い合う男女関係になり、何かを成して社会に認められ結ばれる王道ラブコメと思うじゃないですか?
実際ラブコメしてる中盤までは本当に微笑ましいんですよ。
男性優位社会に求められる枠というものに苦しんでいる2人が惹かれ合っていく姿には普通のラブコメだったら幸せな結末が待っているんだろうなと思わせてくれる展開でした。
でも、この映画はこのラブコメ部分ですら完全に布石。
文字通り上映時間のちょうど真ん中くらいの時間で男性優位社会のエグさを見せてくるというジャンルも描かれ方もガラリと変わるんですよ。
社会の枠によって苦しんだ2人がその枠によって関係性が壊れていく、この構成が本当に見事でした。
中盤までの微笑ましさのある展開、そして社会の枠で苦しむそんな2人の応援したくなってしまう関係性をしっかりと見せたからこそ、
中盤からのエゲツないまでの男性優位社会の枠を主眼にするというジャンルの切り替わりが際立っていましたね。
“何となく”で享受している暴力性と確かな1歩
この映画の男性優位社会の描き方の怖さというのはみんなが“何となく”そういうものだと受け入れている部分。
この手の題材を扱うなら大層な感じでそこに立ち向かうかのように描写することが多いと思うのですが、
この映画は男性も女性も“何となく”この社会というのを受け入れているように見えるんですよ。
社会に対する反発や物申すなんて部分は全然出てこない、その受け入れている感覚から出てくる言動や態度が結果としてとても無自覚な暴力性を秘めているように描写されるんです。
特に象徴的なのはヨンジンが仕事を無断欠勤した時と仕事が成功した時の飲み会の時。
次の日休んでいたヨンジンがジュンソルが選んだ女性らしい服を来て出社した時には綺麗な格好しているから許すとか、
飲み会の時には男性社員が映画で見た女優について若くないとか肌が汚いとか普通に言い、
更にはヨンジンのストッキングに対しての発言などこれが疑問視されずに当たり前のように出てくる。
この1つ1つの描写がヨンジンを通してストーリー話を見ているこちらからしたらとても暴力的にしか感じないんです。
言葉と言うのは時に鋭い刃のような切れ味を持ちますが、これは韓国映画らしい生々しいエグさを感じましたね。
でもこれに対して女性陣が疑問に思っているかと言うとそうでもないんですよ。
この映画、色々な女性が出て来ます。
シングルマザーの元同僚、女優だった妙齢のタクシー運転手、会社の別チームの女性。
こういった女性達を通しても男性優位社会という物は描かれています。
仕事が無くて苦労しているシングルマザー、女優として若さを失って年相応ではなく若く見せようとしていたことを語る元女優、職場で派手な格好をしている同僚など。
これらに共通しているのが男性からの需要を満たすことが第一になっている部分。
“自分らしさ”なんて部分を完全に無視されて男性側からの需要によって成り立っている立場というのは相当に見えない暴力性のある社会というのが分かります。
でも、彼女達はそれに対して大きな不満を口にすることはないんですよ。
こんな社会が嫌だから立ち向かうなんてことは一切言わずに何となく不満や息苦しさがあるからその場から離れる、もしくはそこに迎合して生きていく。
損をしている側もやっぱりこの社会を“何となく”享受して無自覚に諦めているんですよね。
当然主人公のヨンジンの最後の会社を辞めるという決断は“何となく”の違和感や不快感から解放されるためのように思えます。
ずっと言ってるようにこの手のテーマの映画にありがちな今の社会への不満をぶつけるわけでもなく、
でも抱えた違和感から“何となく”の別の一歩を踏み出していく。
この結末の描かれ方は個人的にはかなり好感が持てました。
別に違和感のある社会に対して強い決意を持って立ち向かう必要なんてない、でも“何となく”の違和感で踏み出した一歩を歩む人が増えればやっぱりそれとなく“何となく”社会は変わっていくのかもしれない。
そんな社会的には敗北のような決断でも“何となく”の逆襲の一歩が踏み出された希望ある終わり方だったと思えます。
扱うテーマ的に劇的な展開や結末を求められる大手にはおそらく描けない、そんなさりげない結末がとても心地よく感じるのです。
男性優位社会の歪さが分かるジュンソル
この映画における男性の象徴であるジュンソル。
彼が恋人となったヨンジンのスケッチのデザインを盗用したことからジャンルが一気に切り替わる、
このことから見てもこの映画を動かしていたのは彼の方だったのかなと個人的に思っています。
いやーな役どころとなってしまった彼なんですが、彼の描写自体はかなり丁寧。
この男性優位社会において彼は滅茶苦茶勝利者の立場です。
男性というだけでまず勝利していて親のコネもかなりの強さ、
しかし、その親のコネという部分で逆に彼はコンプレックスを抱えていました。
どんな時でも親のコネで道が用意されてその結果として実力不足な分不相応な人間となり一人立ち出来ていない気まずさ、息苦しさや劣等感など、
男性優位社会の中の枠にハマりきれない男性の苦悩という部分をちゃんと彼を通して描いているんです。
そんな時にこの社会でそれを立ち向かうように働くヨンジンを見て惹かれていくと、
序盤の彼は観客もヨンジンと同じ感覚で頑張ってと応援したくなるような可愛さがあったと思います。
でもその可愛いと思ってしまうような感想がヨンジュンにとっては苦悩を加速させていると分かるのが中盤から。
ヨンジンの盗用したデザインを使い周囲に認められることで彼のコンプレックスが悪い意味で払拭され、
この周囲に認められるという部分により彼はようやくこの社会においての枠にハマれるようになっていき、やがてそこに染まっていってしまう。
そしてヨンジンに対しては男でなければ出世は出来ないと言い放ち、彼女に対して“女性らしい”姿の自分の好みを押し付けていく。
男性優位社会で初めて男としての権威を手に入れたことで社会の枠にハマり、ヨンジンとの関係性や彼女の努力や成果を蔑ろにしていき染まっていってしまう怖さが描かれていましたね。
最初はジュンソルも社会の枠に当て嵌まらないヨンジンを見て惹かれたはずなんですよ。
でもいざ自分が社会の枠に当て嵌まれると思ったら、自分らしさより男らしさに居場所を見つけて相手にもその社会の枠に入ることを強要してしまう。
なまじ最初は頼りなくも努力をしようとする好青年に描かれていただけに、この社会の暴力性やある種の犠牲者にも見えてしまう。
これは男の見る視点としての贔屓かもしれませんね。
ジュンソルは最終的に人より社会の方を見てしまった人物としてかなり丁寧に描かれていたなと思いますね。
枠の外にいる女性ヨンジン
この映画の主人公であるヨンジンはこの男性優位社会においては常に枠の外にいる女性として描かれていたように見えます。
バリバリの仕事人間で課長の座を求め、この映画の中においては行き遅れと言われる立場でもあります。
男性優位社会においてはあまり好ましい人物ではありませんが、それでも職場では最初は頼られている人物でもありました。
ですがジュンソルとの恋愛において彼女も変わっていく。
初めての恋愛の相手でもある彼に裏切られても彼のコンプレックスを知っているから彼を単純に嫌いにもならない。
でも自分のデザインを盗用した彼が成し遂げていく過程で会社や彼を見限るんです。
彼女を取り巻く環境の変化というのは男性優位社会の残酷さをかなり現しています。
自分が売り込んだ時は歯牙にもかけられなかったデザインがジュンソル、つまり男性が売り込んだら通ってしまう。
チームの仲間も最初は反発していたにも関わらずジュンソルが功績を上げるとやはり男性の彼についていってしまうと、
この社会においての枠にハマれなかった女性の厳しさというのをかなりエゲツなく見せて来ます。
でも彼女は最後までこの社会に迎合はしないし、諦めもしないんですよね。
最後にデザインの盗用を告発して会社を辞めて新しいデザインの仕事を元同僚のハナと自分で立ち上げていき、そしてそこで彼女の心情が吐露されるのです。
「これからは自分のためにやろう」
「それでも何かにぶつかったらそれはその時に考えよう」
「今は少し怖くてぎこちなくて慣れない感じだ」
当たり前ですがこの映画において作中の人物達…というかそこに住んでいる人々の社会への感覚が変わることはありません。
でもヨンジンだけは諦めではない形で確かに変わった。
こういう1人1人一歩一歩の変化こそがやがて社会の変化に繋がっていく、
大層に描かれる劇的な物ではなく小さな積み重ねこそが枠からの脱却には大事なのではないかと思わせてくれました。
それにしてもね、ラストまで見るとジュンソルは本当に勿体無いことをした男だと思いますよ。
ヨンジンは彼のコンプレックスを理解をした上で枠の外にいた彼に惹かれてくれた社会ではなくちゃんと人を見ていた女性だったんですから。
まとめ
なんか見ていてすげえ引き込まれて見応えのある映画でした。
序盤はラブコメで展開して2人に感情移入させておいて、
そこからのジャンルの切り替わりで感情移入したからこその気持ちをズタズタにさせてくるんですから。
ミリオンダラー・ベイビーとかあれに近い感覚を与えられましたね。
決まった価値観の社会の暴力性という物を強く描かれていましたが、
女性側だけでなくジョンミンという派手ではありませんが価値観を社会の枠外に置いていそうな男性もしっかりと合間合間で登場させているのもまた好印象。
派手に世の中を巻き込み社会を変化を促すような映画もいいですが、こうやって小さな焦点で確実な一歩を見せる映画もまたいい物です。
扱っている題材に対して劇的な展開の映画ではないので物足りないと思う人もいるかもしれませんが、
小さな視点で描かれた故に刺さる人にはかなり刺さる映画になっていると思いますよ。
韓国映画はこういうのやらせると本当上手い。
この映画を紹介してくださった大元 拓也さんにはこの場を借りて改めてお礼申し上げます。
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