【映画】この物語は“静と動”を通り越している 碁盤斬り 感想

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碁盤斬り
©2024「碁盤斬り」製作委員会

製作国

日本

監督
白石和彌
脚本
加藤正人
出演者
草彅剛
清原果耶
中川大志
奥野瑛太
音尾琢真
市村正親
立川談慶
中村優子
斎藤工
小泉今日子
國村隼

映画、碁盤斬り見てきました。

時代劇というものはかなり久々に見たのですが、この映画は大当たりでした。

序盤は不安になるくらいの“静”、
しかし、中盤に入り“動”へのスイッチが入った時に序盤の“静”を好意的に見れるようになると、
完全に計算されつくした物語の作りがお見事。

そして静寂の中で響く碁を打つ音だけで展開される会話。

当然それらを演じる俳優陣、特に格之進役の草彅剛はハマり役でしたね。

彼の虚さと穏やかさの違い、そして秘めた激情とこの演技があまりにハマりすぎている。

普段見る映画と趣向が違う物でクオリティが高いという贔屓目はありますが、
今年見た映画の中でもかなり心に残る映画でした!

あらすじ

ある《冤罪事件》に巻き込まれた男の怒りを目撃せよ!
父娘の絆を斬ってもなお、武士には守らねばならない誇りがあった。

浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。
しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。

ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。
お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。
父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!

碁盤斬り公式サイトより
キノフィルムズより

感想


静と動を通り越して凪と激情

この映画、とても静かに、しかし内に秘めた感情を常にあらゆる形で表現する“静と動”を突き詰めたかのような映画となっています。

ただあまりに突き詰めすぎて“静と動”なんて言葉じゃ生温い、凪からの激情というレベルの振り幅がありました。

もう本当ね。序盤はマジでこの映画見たのもしかして失敗だったかも?と思うくらいに静か、というか凪です。
何一つ物事が起きない、ただただ淡々と格之進と源兵衛が碁を打つ日々が続くだけなんですよ。

これはおっさん同士が碁という形でデートしているだけの新手のイチャイチャBL映画なんじゃないかと不安に思うくらい。

しかし、左門が格之進の元に現れた時に格之進にも映画にも1つスイッチが入り、一気に激情へと切り替わる。

格之進に冤罪を与え、浪人となる、そして妻を奪われたきっかけとなった柴田の行方が明らかになった時に一気に格之進の感情が見えるようになるんですよ。

これを知った時にあぁここまでの穏やかな凪なのではなく、心が死んでいた者の凪だったんだなと理解出来るようになると。

いや、これが本当に見事で今までの退屈と感じていた前半に一気に意味が出てくる、
そしてそれはその先程まで穏やかに打っていた碁を打つ姿すらも一気に変わる、
どこか荒々しく苛立ったかのように打つ姿を見せて、言葉にせずとも格之進の心に波がざわめいているのが見て取れると、安易に台詞で説明しない良さがありましたね。

この映画はこの格之進の心と物語が一気に切り替わる瞬間だけでも飯が食えるほどの演出の良さがありましたね。

そこからのもう1つの冤罪がかかるシーンからの格之進父娘の覚悟ですわ。

父の愚直故に許せぬ嫌疑とそれを晴らすための行動、しかし復讐のためには取ってはいけない行動に対して娘が身を売ることによって父の背中を押すという。

なんだこの愚直すぎる父娘はと。
2つの冤罪を背負いながらも旅立つ父、作法の世の中で義に向き合い生きる時代劇ならではの風情という物をこれでもかと浴びせられましたよ。

そしてこの復讐の旅というのは過程には全然物語はないんですよ。
ただ淡々と格之進の髭の伸び具合によって時間の経過を知らすのみ。
こんなところでも静かに進む、しかし内に秘めた静かなる激情は確実に積もっていっているのも分かる。

だからこそ柴田との邂逅、そして囲碁で対峙するシーン、そして会話の無い囲碁の打ち合いにも引き込まれる訳ですわ。

この映画は相手と向き合った時に会話を必要としていないというのがここまでにたっぷりと見せつけられてますからね。
もう後は碁を打つ音、そして姿勢だけでこちらが彼等の思いを読み取り続けるだけでいいんですよ。

これが実に心地良い。

静かな空間の中で碁を打つ音のみで穏やかさ、怒り、焦り、それら全てが把握出来る。

この静寂の使い方の上手さだけでこの映画は絶対に映画館で観るべき映画であり、
自分は映画館で見て正解だったなと確信できましたよ。

格之進のキャラクター性も最後まで良いですね。

義に生き、義に愚直な男。

だからこそ義によって行った誠実な行動で狂わせた人生にすら誠実に向き合ってしまい目を逸らすことは出来ない。

そんな彼だから柴田の狂言であった行動に安堵を覚えて、最後の決断に繋がるわけですよ。

あれに関しては義に生きる男としてはある種の矛盾ですよね。
義に反する行動ではあり、人を救うという義に基づいた行動でもある。
でも格之進は最後に他人に向き合うことを決めた、これが彼の善性というものを強く感じて、
うーん、もう上手く言葉に出来ない!風情という言葉で片付けてしまいますよ。

そんな格之進を演じた草彅剛は完全に役にハマりまくってましたね。

彼の演技を見るのは久々だったんですが、格之進はハマりすぎです。

虚な目をした姿、激情のスイッチが入った瞬間の空気、
序盤の凪の期間からこれに切り替わった時に彼を起用した意味がよく分かる。

この穏やかさと虚さを纏う雰囲気やそもそもの顔立ちが格之進という人物にハマりすぎている。

彼ほど激情を静かに秘めるという役を格好良さも出さずに似合う人物というのも中々いないと思いますね。

そしてラストの激情を出してからのタイトル通りの碁盤斬りは正に見せ場。
あそこの憑き物が祓われた瞬間という物は当然演出の妙というものもあるでしょうが、あれだけ引き込ませてくるのはやはり演技ありきといえるでしょう。

俳優草彅剛の纏う雰囲気とそれを引き出す凪と激情の演出、
完全に何もかもが噛み合っていた芸術的な映画でした。

まとめ

時代劇自体久々に見たのですが、殺陣という分かりやすい見せ場をほぼ使うことなく魅せたというのは自分の中ではかなり新鮮でしたね。

肝心なシーンは言葉も無くほぼ碁の音だけで語り合い、殺し合う。
うーん、やはりこれは静寂を強く感じることが出来る映画館で観るべき映画ですね。

自分の中で惜しむらくは囲碁に詳しかったら絶対にもっとのめり込めただろうなと思うところ。

別にハードル上げるほど必要な知識では断じてないのですが、打ち手というものを理解しながら見ると絶対もっと楽しかったと思うんですよね。

でも、囲碁はちんぷんかんぷんだからどうしようもねえ。

物語も美しく終わり、俳優陣の演技も文句無し。

分かりやすい安易な演出や演技ではなく“静と動”で魅せる時代劇という物から醸し出される風情という物を強く感じとれ、本気で取り組んでいた映画でした。

たまにはこういう静かなのに激しい映画を見るというのもいいものですね。


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