【映画】淡々と描かれる息苦しさ ホワイトブラッド 闇堕ちした男 感想

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ホワイトブラッド 闇堕ちした男
(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

製作国

アメリカ

監督
ベンジャミン・バトラー
脚本
ベンジャミン・バトラー
出演者
ルーベン・ラバサ
ティム・アベル
J・R・ヴィジャレアル
ジャーネスト・コルチャド
チャス・ラフリン

今回は麻薬の運び屋に堕ちる男が描かれるホワイトブラッド 闇堕ちした男(原題:Whiteblood)の感想。

不法移民と麻薬というなかなかに向こうではセンシティブな題材を取り扱っており、淡々とした作風と音楽の主張の少なさからまるでドキュメンタリー映画のようにも見える内容でした。

2つの視点が最後に交わり観客だけに明かされる真実は注目ですよ。

ジャンルはアクションとなっていますがそんなアクションはないです。あ、後上映時間は約82分となります。

ここが見どころ!

まるでドキュメンタリー映画のような淡々とした作風

読めはすれど最後の瞬間に邦題の闇堕ちした男が誰にかかっていたのか分かる構成

あらすじ

もう後戻りはできない!
麻薬常習者の父親から逃げ、アメリカで不法移民者として暮らすメキシコ人のリコ。最愛の母親がガンで入院し高額な治療費が必要になったリコは、親友のパコと共にジュリアスという男が仕切るコカインの運び屋を行うことに。それは国境の川で釣り糸を投げ、浮き輪に乗せて川に流したバッグを受け取り倉庫に運ぶというものだった。最初の仕事が成功し、ジュリアスの妹アリアナとも親しくなるが、二度目の仕事で国境警備隊に捕まりかけたリコとパコは、大量のコカインを置き去りにしてしまう。仕事に失敗したことでパコを殺されたリコは、ジュリアスを返り討ちにする。追い詰められたリコは倉庫にあるコカインを盗んで売りさばこうとするが、それは麻薬密売人エイブの所有物だった。

Rakuten TVより

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登場人物

リコ

アメリカに不法移民としてやってきたメキシコ人

最愛の母がガンとなり治療費のためにコカインの運び屋として働く

父はコカインが原因で蒸発している

釣りが得意

パコ

リコの親友

彼の母の容態を知りリコにジュリアスを紹介する

ジュリアス

薬の運び屋

話を聞きリコ達に仕事の下請けを任せる

アリアナ

ジュリアスの妹

リコに口説かれ彼に心惹かれていく

エイブ

麻薬密売人

過去にメキシコに住んでおり、飼った子犬と共に将来は戻ろうとしている

淡々とした作風のストーリー

本作はメキシコからの不法移民である主人公リコが母の治療費のためにコカインの運び屋となり、
その仕事での失敗から事態が悪化するというとても分かりやすいストーリー。

そんな麻薬と不法移民というセンシティブな話題を敢えてなのか結果としてなのか、とても淡々とした作風で送られる内容となっておりました。

終始淡々としすぎているので映画的な仕掛けとして2つの視点がどう交わるという部分だけに注目し、そこを楽しみに見るべき映画かもしれません。

2つの視点で進行する

この映画は2つの視点から送られ、母の治療費のためにコカインの運び屋に堕ちるリコと麻薬密売人であるデイブ、
この2人の視点が切り替わりながら進行していきます。

リコ視点では不法移民、家族の苦境、そしてコカインの運び屋としての緊張感など自分ではどうにも出来ない環境という物による息苦しさなどを主に描かれ。

(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

デイブ視点では麻薬密売人としての暴力的な描写、そして飼っている犬だけに見せる優しさなど、
これを意外性のある一面と見るべきかどこまでも自分本位な人間と見るべきかは別としてとりあえず単純な人間ではないよと示唆するように描かれています。

(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

単純に見れば麻薬という繋がりでしかないこの2人ですが、ボスと雇われの末端ということで直接的な繋がりはまるであるはずがない、
そんなこの2人の視点がどう交わるのかがこの映画の楽しみの1つだと思いますが、これが交わるのが本当に最後の最後。

予測は簡単に出来る結末となりますが、分かっていても風情はある結末でもあるのかなとは思いますね。

ドキュメンタリーのような運び屋描写

最初に行った通りこの映画は全体的に淡々とした作風となっています。

これはBGMの主張が少ないなどもありますが、肝となる運び屋としての描写がまるでドキュメンタリーのような淡々な描写なのも強く影響しています。

主人公リコとしては苦渋の決断、人生の分岐点、そんな決断からの運び屋描写のはずなのですが、ドラマ性がまるでないのです。

目印の川に釣り人を装って進み、薬を受け取り方か倉庫に運ぶ、そして大量にあるとはいえこれを1つでも盗んだらまずいこと、
そして書かれているラベルの意味など手順とルールを淡々と説明しながら行うと、まるで大人版(意味深)初めてのお使いのようなのです。

一大決心のはずの仕事をこんな淡々さで流すというのはやはり映画的な描写でなくどちらかと言えばドキュメンタリー的な描写。

盛り上がりの欠ける物になりますが、成功する時はこんな物なんだよと見せることでこの後の失敗を引き立てているのかなと思わないことはないです。

その失敗も割と淡々としすぎてはいるのですが。

何というかリコにとって人生があらゆる意味で変わってしまうメインのはずの要素にも関わらずこれだけドラマ性を無くしているのは、
ラストの2つの視点が交わる瞬間だけにドラマ性を集中させたいのかな?と思うくらいの潔さを感じましたね。

その最後も薄めなんですけどね。

リコという主人公

(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

ガンとなった母の治療費のためにコカインの運び屋に堕ちてしまう主人公リコ。

彼の境遇という物は実に息苦しい境遇であり、社会風刺的な存在でもあります。

母国であるメキシコではコカイン中毒となった父から逃げるためにアメリカに不法入国して不法移民という立場、
これにより保険に入れず母の治療費を工面できないだからコカインの運び屋となるのですが。

形は違えど家族を壊したコカインで身を堕とすというのは実に皮肉を効かせており、
またそれくらいしか手段のない境遇の息苦しさもまた浮き彫りにしているように感じます。

それでいて切羽詰まってるとはいえ嫌悪しているコカインの運び屋としての仕事にノータイムで乗ってしまうのは、
映画の構成の都合と見るべきか、お国柄と見るべきか、それとも…血筋なのか…ラストまで見るとこの仕事に乗るまでの早さが個人的に色々考えてしまう部分かなと思いましたね。

そんな仕事をしながら元締めに近い立場のジュリアスの妹のアリアナを口説いたりしてしまう軽さもある部分が、大分日本人的な感覚から離れていて少々共感が追いつかない部分が強めな人物でもあります。

これでささっと両思いになったりする部分などあまり人物描写の積み上げという物は重視していないだけかも?

(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

とはいえそのアリアナとの会話は最後へのお膳立てがたっぷり。

運び屋の仕事としてのリスクやジュリアスの危険性、そして彼が昔は優しかったこと、最後に家族を何としても守るという認識。

どれもこれも最後へのフラグとしか思えない会話なのでちょっと笑ってしまいますが、
薬によって身を堕とすというのは何も使うことだけではないんだよという部分をよく見せてくれる主人公ではありましたね。

交わる視点と2人の関係(ネタバレ)

リコとデイブの視点が最後に交わる瞬間、それはリコと親友のパコの運び屋の仕事の失敗から端を発する物となります。

ざっくり要約すると仕事に失敗したからジュリアスに粛清されそうになり、パコは撃たれて死亡してリコはジュリアスを殺害することで生き残るというもの。

それで自身も母の治療費においても退路を絶たれたリコは倉庫からコカインを盗んでエイブ達に売り捌くという禁止の行為をするわけです。

ここで2人がようやく交わるわけですが、リコならともかく接点としては離れていたデイブの視点をなぜ挟んでいたのか、これが本当に最後の最後で明らかとなります。

自分達から盗んだ薬を自分達に売り捌こうとしたリコを粛清するためにやってきてデイブ。

ここで交わる2つの視点、そして自身に銃を突き付けるリコを見てデイブが気付いたことは…

何とデイブが蒸発したリコの父親だったのです!

うん…まぁ正直予想は出来ていた内容でした。

導き出すための情報自体は確かに少ないのですが、作劇的に考えるとこれくらいしかデイブの視点を描写する意味がないんですもの。

情報よりメタ的な理由で予想は容易でしたね。

これ自体は別にいいんですけどね。ただデイブがリコを息子と気付くもそのリコに銃を突き付けられた状態で映画の幕が降りる…というのは風情はありますが、
ここまで淡々とした作風に付き合ってきた中でようやく最後に盛り上がりのあるドラマ性を出したのだからもう少し何か欲しかったかなと。

(C) 2017 Whiteblood, Benjamin Butler. All Rights Reserved.

確かに語られすぎるのは風情が欠ける幕引きの仕方はしているのですが、でももう1つ何か…何か欲しかったなぁと。

せっかく最後まで長々と2つの視点を交わらせずに進行して最後に真実と共に交わらせたのにこの幕引きだと、結局雰囲気だけで終わってしまったストーリーだなと思わざるを得ませんでしたね。

淡々としすぎた分最後くらいは露骨さのあるドラマ性あった方が好みでした。

闇堕ちした男とは

邦題で勝手に付けられた部分ではあるとはいえ全部見るとなかなかいいサブタイな気がする闇堕ちした男。

これが一体誰にかかっていたのかと考えるとやはりデイブやジュリアスなど薬にどっぷりと浸かった存在なのかなと自分は感じました。

正直リコに関しては確かに堕ちてはいっているのかもしれませんが、アリアナを庇ってデイブに立ち向かったりなど闇堕ちしているとは思わないんですよね。

となるともう1つの視点であるデイブこそがこのサブタイに相応しい存在なのかなと。

彼はコカイン中毒(らしい)で妻とリコに危険性があると思われて離れられ、そしてアメリカでは麻薬密売人として活動と。

これはリコに比べると彼の方がよっぽど闇堕ちしている男と言えるでしょう。

実際彼の視点ではギャングらしい痛々しい拷問や容赦しない殺人などが描かれていてとても善性の人間だけとはいえない描写が続きます。

それでいて犬を心底可愛がり共にメキシコに戻ろうとしていたりはするのですが。

もう1人、ヒロインのアリアナの兄であるジュリアスもアリアナ曰く昔は花をよく持ってきて名前をつけたりするくらいアリアナの中では1番優しい人“だった”と語られています。

そんな彼もコカインに纏わる仕事に関わりその仕事にどっぷりと浸かることでひとを傷つけることを躊躇わないくらいの人間に現在はなっていると。

このようにデイブにしてもジュリアスにしても過去に良い所はあったように見え、
この2人はリコが行くかもしれない堕ちた果てを見せているように自分は思いました。

最後のリコがどういう決断をしたのかは分かりませんが、その決断によっては彼も2人のように闇堕ち“する”のかもしれません。

まとめ

もっとよく出来そうなのに色々と勿体ない映画だなと思いましたね。

2つの視点、不法移民や麻薬といったセンシティブな題材。

これらがありながら終始淡々とした内容で終わってしまうのはちょっと物足りない内容でした。

特にリコとデイブの2つの視点はあれだけ溜めに溜めて最後に交わらせたのですから、
2人の関係性が明らかになるだけで幕引き(しかも片方が一方的に納得するだけ)なのは流石に消化不良でした。

こういう社会的な題材を扱って学びや知識の広がりもなく淡々としているだけで終わるというのは、
自分にとってはある意味1番苦しい内容だったかもしれません。

やはりどんな物でも1つは盛り上がりのある物がいいなぁとこれが唯一学びとなったかも知れません。

別に本作を見なくてもとっくに認識している学びなんですけどね。


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