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製作国
韓国
監督
キム・ヒソン
出演者
チョ・ドンヒョク
イ・ワン
イム・ジョンウン
キム・ソヒョン
何か無いかなと探していたらふと見つけた好みの展開になりそうなこの映画。
実際に見たら韓国映画らしい人物描写と任侠映画らしいバイオレンスさがたまらない映画でした。
今回はそんな映画、鬼と獣(原題:피는 물보다 진하다/The Goblin)の感想です。
ジャンルはアクションで上映時間は約90分となります。(個人的にはアクションよりドラマ要素が強いと思っています。)
・悲しきすれ違いと娘への愛で決別する2人の男の物語
・任侠物らしいバイオレンスかつキレッキレなアクション
目次
あらすじ
裏社会で鬼と恐れられた殺し屋・ドゥヒョンは、弟分・ヨンミンが犯した罪をかぶり、収監される。出所後、ドゥヒョンは闇の世界から足を洗い、妻と娘を遠くから見守る日々を送っていた。しかし、野望にまみれたヨンミンがドゥヒョンを再び惨劇に引き込み…。
U-NEXTより
登場人物
・ドゥヒョン
“鬼”トッケビと恐れられた殺し屋
ヨンミンの罪を被り服役し、稼業からは足を洗った
殺し屋をやっていたこと、服役したことにより妻と娘が離れることに
・ヨンミン
ドゥヒョンの弟分
心臓を患っている娘ウンジュを溺愛している
組織のボス、ペクサンを殺害し金を持ち出したがドゥヒョンが罪を被ったことにより追及されなかった
・チェ刑事
多くの時間に関わっているトッケビを追う刑事
10年前の事件でドゥヒョンを逮捕してからは彼に懇意にしている
・ジヨン
ドゥヒョンの元妻
殺し屋をし、服役したドゥヒョンから娘のために離れていった
・イェナ
ドゥヒョンの娘
転校してきたばかりの学校でウンジュの行っているいじめを咎めるなど正義感のある子供
ドゥヒョンを父とは知らずとも安心感を覚え彼に懐くことになる
・ウンジュ
ヨンミンの娘
父の権力もあってか学校では偉く振る舞っている
父のヨンミンには反抗的な態度を取る
・シンサ
ヨンミンの側近
出所してウンジュのいる学校に訪れたドゥヒョンを警戒している
・ヒョンド
ヨンミンの部下
好戦的かつ残忍でドゥヒョンの監視だけを命じられたにも関わらず彼に一方的な暴行を振るう
2人の部下がいる
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“鬼”
企業抗争にも顔を出す裏社会の存在ペンジョン派。
そこで最も恐れられているのがこの“鬼”韓国語だとトッケビ。
これが主人公たるドゥヒョンの通称となります。
事件を追う刑事の間でもほぼ1人で敵を血の海にするなど尻尾も掴めない伝説的な存在として有名な存在です。
序盤の段階だとどちらかと言うと弟分のヨンミンのアクションがメインであり、彼本人のアクションは冒頭の僅かのみとなるのですが、
そこだけでも圧倒的な怖さの描写、そして所属しているペンジョン派の行動の残忍さによりはっきりとした動きを見せずとも彼の恐ろしさが漂ってきます。
任侠物だけあって最初からバイオレンスアクションあり、拷問ありでかなり生々しい痛々しさが表現されています。
冒頭でこれはフィクションですよって出すくらいですし、向こうでは生々しい身近な表現なのかもしれませんね。
捜査官への拷問などトドメをヨンミンが躊躇する中ドゥヒョンがあっさりと弟分のためにスパッといくくらいですが、ここだけで1つレベルが違う感醸し出しています。
この裏社会表現が“鬼”の恐ろしさをしっかりと際立たせている、
これでいて家庭では妻のジヨンに血の臭いがするからシャワー浴びてと言われるとか、
あくまで任侠者としてではありますが最低限の倫理観や優しさ見せるギャップがたまらん男でした。
分たれた男達
ドゥヒョンとヨンミンこのある日を境に分たれた2人の悲しきすれ違いがこの映画のメインといってもいい内容。
そのすれ違いっぷりは殺し愛にまで発展するさながら恋愛ドラマのよう。
ペンジョン派のボス、ペクサンにボスの地位を狙う自身の師匠ホ・ガンの始末を依頼されるヨンミン。
それを果たした後の報酬の低さに怒りペクサンまでも手にかけてしまう、
恐らくは師匠を手にかけた上に娘のウンジュの治療費も込みでの話なので最も怒りなのですが。
任侠物では良くある部下を舐めすぎるとってやつですね。
その場から金を持って逃走した後にドゥヒョンがやってきてペクサンの口からヨンミンにやられたと聞き、
チョ刑事がやってきた後も抵抗せず自身が敢えて逮捕されます。
ここからのすれ違いが最後まで尾を引くのがこの映画の心理描写の上手さでした。
服役中にドゥヒョンに面会に来るヨンミンですがドゥヒョンはそれを拒絶する。
ドゥヒョンからしたらヨンミンを気づかってのものだったのでしょうがヨンミンからしたらトッケビであるドゥヒョンの怒りを買ったと思ってもおかしくない。
これが2人の間に恐怖と誤解、亀裂を招くというなんだよこれすれ違いのラブストーリーかよぉって、
その手の関係性が好きな人には鼻血が出るくらい好きな物なのではないでしょうか。
悲しきすれ違い
足を洗ったドゥヒョンと当時のドゥヒョンの真意が知らずに恐れるヨンミン。
この2人をお互いの最愛の娘が再び繋ぎ、そしてすれ違いへと導いていきます。
娘同士が同じ学校にたまたま通っていたという運命の悪戯、
その娘のイェナにプレゼントを渡しに行ったドゥヒョンをヨンミンの娘のウンジュを送り迎えしている車が轢く…
やや展開のための強引さも感じますが韓国の作品はこういう運命論的な展開は多々あるのでそこに突っ込むのは今更ですね。
ここからのドゥヒョンとヨンミンの互いへの認識の違いによるすれ違いが悲しきラストへと導いていきます。
娘のイェナに会いに行っただけのドゥヒョン、報復のため娘のウンジュに接触しに行ったと恐れるヨンミン。
監視をつけたら部下のヒョンドが暴走して手を出したことにより尚更報復の可能性を強く感じ、
自身、そして娘のウンジュの身の危険を感じ精神的に追い詰められていく。
このヒョンド、ヤクザというよりはチンピラ寄りな存在なんですが、
彼がまたあまりにも見事な憎らしい演技で足を洗い反撃しないドゥヒョンを一方的に腹立つ態度と顔でリンチするという、
ここまでやることやってしまったらそりゃヨンミンも報復を更に恐れることになるわと言うレベルの越権行為であり、
この観客をもムカつかせる態度が後半の謎のスカッと感にも繋がっていくんですね。
ヨンミンに対して何もわだかまりはないドゥヒョンに対してこのヨンミンの認識、
服役中にただの一度でも面会し会話していたら避けられていたかもしれない事態と、
過去に行った相手への気遣い、恐れが拗れに捻れていく心理描写の丁寧さは魅力的でした。
任侠世界故のすれ違い、設定も活かしているのがグーです。
部下の暴走で尚更過敏になっている中でウンジュがイェナに対して起こした傷害、
この件の調査でドゥヒョンがウンジュに接触したことによりこの一連のすれ違いによる決定的な亀裂が走ります。
以前の部下の暴走、自分の娘がドゥヒョンの娘を傷付けたこと、そしてウンジュへの接触。
ヨンミン視点だと報復に動いたとしか思えないこの勘違いがドゥヒョンを始末するという決断へと走らせ部下に病院のイェナを攫わせる…
間違いなく避けられた事態を互いの認識がズレたまま互いの地雷を踏んでしまうという、
相手の“過去”を理解しているが故に起きるこのすれ違いに娘まで絡んで決定的な決別まで行ってしまう、
ご都合的な部分があるのは確かなんですがとても引き込まれる構成でした。
まぁ、この2人はそういう運命だったのでしょう。
“鬼”の目覚め
イェナをヨンミンの指示により攫われたことを知ったドゥヒョンは慟哭と激昂の中で足を洗い捨てたはずの過去“鬼”トッケビとしてイェナを救いにいきます。
冒頭の僅かしか見れなかったトッケビの恐ろしさがここから遺憾無く発揮されていきます。
今までのアクションなんて遊戯みたいなもんだなと言うレベルのキレッキレかつバイオレンスたっぷりのアクションで文字通り格が違う強さ、
本来なら戻れない一線を超えてしまった瞬間なのですが一方的に耐えるシーンがここまで続いたためどこか爽快感すら覚える暴れっぷり。
ドゥヒョンには悪いのですがこれが見たかったんだよ!という暴力的かつ見栄えのいい任侠アクションが素晴らしかったですね。
特にヒョンド一味との戦闘はヒョンドの憎らしさというタメがあったため、
最後は少しあっさりしすぎかなとも思わなくもないですが見たい物がちゃんと見れてとても満足出来ました。
本当に怖い存在を舐めるとどうなるのか、その末路としては満点ではないでしょうか。
娘への愛
ドゥヒョンとヨンミン、2人を再び交わらせそして決別まで導いてしまったのが彼らの娘イェナとウンジュ。
父としての2人の共通点として娘への愛というのが間違いなくあり、それがあったからこそ致命的な決別まで導かれたのだと思います。
この2人の娘との関係性というのがまた対称的であり、ドゥヒョンの娘イェナは父ドゥヒョンを全く知りません。
ジエンと共に幼い頃に渡米してそこでの新しい環境や父にも馴染めず親子共々戻ってきた彼女ですが、
父と知らず再会したドゥヒョン相手にはすぐさま安心感を覚え信頼します。
ドゥヒョンが抱き締めていい?と知らないおしさんからなら変態的としか言えない提案ですらすんなり受け入れる、
自身の殺し屋という過去の行いから父と告白することは出来ないドゥヒョン、相手を父とは知らないイェナ、
側にいなくても何も語らずとも信頼し愛することが出来る無条件の結びつきとなる血という本能を感じる関係性でした。
それに対してヨンミンとウンジュの関係性は必ずしも上手く言っているわけではありません。
ウンジュはヨンミンに対して反抗的、年齢考えると反抗期には早いでしょうが、
それでも複雑な心境ながらもヨンミンはウンジュを溺愛しています。
それは自分の立場や権力を行使した過保護さであり、後半のイェナを突き飛ばして怪我をさせたウンジュの事件を脅して封殺ところからも見て取れます。
側にいなかった者が信頼され、側にいた者が反抗される。
同じ年齢の娘を持つ父でありながら、こうも予想通り思い通りにはいかない関係性、これが親子というものなのでしょうか。
最終的には互いの娘を人質に取るような形で対峙する2人。
結果として彼らを決別まで導いてしまった娘への愛、
普通なら尊い者なのに世のままならなさ、非情さと意地悪さも感じますが、
これはこれで愛という物の深さも表現できていたなと感じる関係性でした。
人は変われるか?
決定的な場面でちょくちょく挟まれるこの映画の1つのテーマですね。
チョ刑事がドゥヒョンに語る、
「先輩によく言われた人は簡単には変わらない。犯罪者には絶対に同情するな、新人の頃はそれに食ってかかったが、しかし今は部下に同じことを言っている」
一度道を外れた者はもう戻ることは出来ないそう感じているチョ刑事でしたが、
ドゥヒョンを見てその考えをもう一度だけ否定しようとドゥヒョンと家族を再会させます。
これすら決別に進んでしまう後押しの1つになってしまったのはやっぱり意地が悪いなと思いますが、人を信じるということは決して悪かないと思いたいですね。
そしてヨンミンが語る、
「10年経てば山河も変わる」
ヨンミンは恐れからくるドゥヒョンの変化の期待ですが、
これは逆に言うとチョ刑事と違いドゥヒョンを信じてはいないんですよね。
いつまで経ってもヨンミンの中ではドゥヒョンはトッケビのまま。
これはドゥヒョンがどれだけ自分が変わったとしても過去の行いから来る周囲の認識までが全て変えられるわけではないということも示しています。
正直映画だけだとドゥヒョンもヨンミンもちょっとバイオレンスなこともしますが娘思いの父という要素が強い人間です。
しかし、稼業のことを考えると間違いなく多くの者を手にかけてきた人物達であり、今回の件はその行いや業に囚われ追いつかれたような内容だと思います。
結果としてトッケビへと戻ってしまったのでチョ刑事に人は変わらないんですよねとどこか投げやりな連絡するのも致し方ないのかもしれません。
しかし、ヨンミンとの決着ではナイフを刺してトドメを刺すのではなく拳でぶん殴るというところで踏みとどまります。
この決断は個人の感想を言うのであればトッケビに戻っても最後に踏みとどまれた、
変わらないと自虐した彼ですがこれが彼の変わったことによる決断と結末なのだと信じたいですね。
バイオレンスな任侠アクション
この映画の魅力の1つであり、トッケビの存在感に説得力を持たせる要素であるアクション。
これはすんばらしかったですね。
殴る、蹴る、斬る、刺すって感じでともかくキレのある情け容赦ない任侠アクション。
特にトッケビに戻ったドゥヒョンのアクションはバイオレンスの極みですね。
最初の1人を仕止め盾にして刺しながら近づいていく様はまさに“鬼”に相応しい演出。
ヒョンド一味との決着はアクロバティックでやや毛色が違いますが、
まぁこういう風に幅を持たせそれすら封じ込めるトッケビというのはこれはこれで圧倒的な強さの表現にはなっているのでいいと思いますね。
後は決して無敵というわけではないのもいいですね。
ちょいちょい刺されたり切られたりするのですが、
それでも向かってくるというのは下手に被弾しない無敵な人間よりよっぽど怖い、
トッケビという肩書きにはこの描写の方が相応しい内容でした。
キレッキレですが痛々しくかつ生々しい描写のあるアクションなので人は選びそうではありますが、
まぁ任侠物見るのであればそれは分かって見る人ばかりだと思いますので多分大丈夫だと思います。
後ろ蹴り喰らわせた後のアングルが個人的な好みのポイントでした。
まとめ
久しぶりの韓国映画、任侠映画だったのですがこの両面で満足出来ました。
向こう特有の感情描写の力の入れようと任侠らしい暴力表現が良く噛み合ってましたね。
男同士の悲しいすれ違いということで、これ男同士の友情やら愛情やらが好きそうなそちらの趣味の方々には結構ハマりそうだなと思うくらい丁寧な感情描写でした。
ストーリー的には少し展開のための展開な部分もあるのですが(特に娘絡みですね)、
これも運命的な物と考えると向こうだとそんな珍しくもない展開なのでそこら辺ひっくるめて見れる人にはかなり楽しめると思います。
こういうすれ違いで行くとこまで行ってしまうというのは自分は好きな話のでまぁお気に入りになっちゃいますよね。
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